suckle nouveau 2018

エッセイスト・羽生さくるのブログ。

さくるの女子力アップ講座 上級編⑥ わたしに似合う靴、靴をくださいな

上級編もいよいよ最終回。

靴についてです。

履き倒れトーキョー。

 

10.  ヒール履く

 

外出したとき、自分を支えてくれるたった一つのアイテム、それが靴です。

空との接点が髪でそれを飾るヘアアクセサリーには装飾品以上の意味がある。

ならば、地面との接点の靴にも、足を守ることや防寒以上の意味がある。

地に足をつけることがすごく苦手なわたしにして、そう思います。

靴は安いのでいい、なんでもいい、と身近な人にいわれるととても悲しくなるのです。

 

では、高いのがいい、デザインのいいのがいい、ともならないのも靴です。

どんなに素敵でかっこよくても、足が痛かったら元も子もない。

以前は、靴を買おうとしたら、銀座で一日がかりでした.。

ダイアナ、コマツ、ワシントン、エスペランサ、ヨシノヤ。

ハイヒールのときは、どこにも合うものがなくて、シャルル・ジョルダンにたどり着き、フィッターから「お客様の足は薄いですねえ。手みたいな足」といわれて苦笑。

 

国立に越してきて、娘がおなかにいるときのことでした。

いろいろな世界の達人にインタビューした本をたまたま読んでいたら、古武術の武道家の足袋の中敷きを作っているという靴屋さんが目に留まりました。

この人だ、という直観で、電話で予約をし、家族三人で新井薬師前のその靴屋さんを訪れました。

以来21年間お世話になっているマシモ靴店の間下庄一さんとの出会いです。

 

彼は、15歳で靴職人の世界に入り40年以上オーダーシューズを手掛けていましたが、日本人の腰痛と外反母趾の多さにオーダーをやっている場合じゃないなと、ドイツへ勉強にいきシューフィッターの資格を取りました。

それからはドイツのコンフォートシューズを、履く人の足に合わせて調整することを始め、全国からお客さんを集めるようになったのです。

古武術の武道家や能役者の足袋の中敷きもその「調整」の一環というわけです。

 

わたしは、もともと背骨に弱点があり、妊娠出産育児でとても疲れて、整体やカイロプラティックやマッサージ、ありとあらゆるものに頼っていました。

それが、間下さんの靴を履くようになってから次第に軽減。

だんだんに健康になっていきました。

 

ただ、デザインはメンズと変わらない、革の紐靴でした。

育児中はジーンズやパンツばかりでしたからそれでもよかったのですが、女子力向上を志したときには靴も変えたくなりました。

わたしは間下さんに恐る恐る聞いてみました。

「パンプス履いてもいい?」

「ああ、いいよ」といって出してくれたのがShianという日本のメーカーの中ヒールのパンプスでした。

前の履き込みが通常のものより深く、ちょっと重たい感じもしましたが、とにかく紐靴卒業のお許しは出たのです。

まるで足に食いつかれているみたいにフィットし、歩くとまるで家を履いているかのようにどっしりとしています。

ダッシュもできそうです。

すぐ履かせてもらって、足取りも軽くお店をあとにしました。

 

それが初パンプスでしたが、その3年後、ついにハイヒールを所望してみました。

「はいこれ」と間下さんが差し出すのは、やはりShianの足首をストラップで留める形の7センチヒールでした。

「これ以上の高さだと責任を持って調整できない」といいます。

足首のストラップは、わたしのように踵の小さい細い足には必須だそうです。

クラシックでフランスの女優さんぽい、とわたしなりの納得。

 

これはさすがに長時間履くのは大変です。

とくに電車やパーティでの立ちっぱなしは辛くなります。

靴は立ってるものじゃなくて、歩くものなんですね。

でも、ワンピースが大人っぽく着られるようになって大満足。

 

どこかバゼットハウンドを思わせる深い茶色のコンフォートシューズから、エマニュエル・ベアールが履いてもよさそうなストラップのハイヒールまで。

じつに18年の歳月がかかっているわけです。

涙ぐましいなあ。

 

昨年は初めてヒールのあるサンダルを履かせてもらいました。

(すべて間下さんから出されるものなので、わたしには選べないに近いのです)

それはオランダの靴で、玄関に脱いでおくと、まるでわたしの足が脱いであるように見えます。

履くと、下から手のひらで足を包まれているみたいです。

エナメルの、黒とワインカラーのストラップがさりげなくシック。

 

先日、息子の仕事用の靴と、娘の就活用の靴を買いにいったとき、そのメーカーのダンスシューズのようなパンプスがありました。

横目でにらんで...がまんしました。

触ったら最後、間下さんが「これいいよ」といって履かせにくることがわかっていましたから。

あのメーカーの木型なら合わないはずはないのです。

ううう。

 

靴だけは、かわいい、といって飛びつけないものです。

体と足に対して、深い愛情を持ちながら、気長につきあっていくことが大事。

それまで足を痛くしたり体を疲れさせていたりした靴を、すっぱり諦める覚悟も必要です。

 

こうして書いてみると、わたしの間下さんとの交流の年月は、母親としての自分から女性としての自分をつくっていく過程に重なっていますね。

女子力の向上は足元から、と締めくくらせていただきます。