suckle nouveau 2018

エッセイスト・羽生さくるのブログ。

わたしに「わたし」を重ねる

2年ほど前から、依頼をいただいて、文章教室を随時開催しています。

記念すべき第1回は、中高の同級生たちの勉強会でした。

そのときからずっと、生徒さんたちに最初にしてもらっていること。

それは「一人称を選びなおす」ということです。

 

日本語には一人称が数多くあります。

英語なら「I」一つですよね。

日本語は、一人称を使わないで自分のことだと察してもらう、という方法まであるほど、一人称が複雑な言語なのです。

 

それなのに、なのか、そうだから、なのか、一人称を自覚を持って使うという機会も、わたしたちには、なかなかに与えられないように思います。

 

いまあなたが使っている一人称はなんですか。

それはいつから使っていますか。

なぜ、その一人称を使っているのでしょうか。

 

これらの質問に答えていただくのも意味があることなのですが、わたしは気が短いほうらしく(気づかされたエピソードは後日)いま使っている一人称をいったん机に戻して、他のぜんぶの一人称とシャッフルしてから、改めて選びなおしてみませんか、とお勧めするほうが性に合っています。

 

それをすると、この「自分」と、文章のなかの「自分」が一致します。

意識の自分と、文章の話し手が同じになるのです。

わたしはほんとうはこう思っているんだけど、どうしても文章には表せない、文章を書くのは難しい、という思い込みが外れます。

 

いままでは、なんとなくで使っていた一人称を、自分自身のものにチューニングし直したとき、まるで他人のようだった文章のなかの自分が、この自分にぴったりと重なります。

思っている自分と、書く自分の乖離がなくなるのです。

ここからは、なにを書いても自分自身の文章。

 

多少疑問が残っていても、そういうことにしてしまうのがコツです。

強引ですが。

 

わたし、わたくし、ワタシ、あたし、あたくし、あたい、あちき、わらわ...

女性的なものを仮名で書くだけでも、すぐにこんなに挙げられます。

漢字では、おそらくいちばん多くの人が使っているであろう、私。

これら思い起こせるすべての一人称のなかから、自分にいちばんぴったりくるものを一つ。

 

きょうからその一人称を使って、文章を書いてみませんか。

そうしたら、あなたはもう、さくる文章教室のベーシック修了です。

次はいきなり中級ですからね、ご用心ください。